【経審】入札発注行政と経審のハザマ~業種追加と積み上げでモッタイナイをなくそう~
皆様こんにちは。
3月決算の業者さんは経審がだいぶおちつき、5月、6月、7月決算の業者さんは佳境を迎えているところかもしれません。
今日は、経審実務の現場でよくある?割と根深い?問題に切り込んでいきたいと思います。
皆様の経審においても「モッタイナイ」がないか、確認してみてください。
●1.事例の設定
わかりやすく解説するために架空の事例を設定してみましょう。
★株式会社CLA
許可業種:土木一式、建築一式、とび土、舗装、水道施設、解体の6業種
経審受審業種:土木一式、建築一式、とび土、舗装、解体の5業種
上記の会社があったとしましょう。
●2.入札告示をのぞいてみよう
ここで、公開されている昨年の入札告示をいくつかのぞいてみましょう。
※さいたま市告示(令和3年6月)から一部抜粋
このさいたま市の一般競争入札工事は公民館の大規模改修工事となっていますが、工事の内容は、防水改修、外壁改修、建具改修、内装改修、塗装改修、外構改修となっています。
そして参加資格(条件)を見ると、名簿登載業種が「建築工事業」となっています。
つまり、建築一式工事の許可を有し経審受審をしていなければならないということになります。
※富士見市告示(令和2年11月)から一部抜粋
次に富士見市の制限付一般競争入札をのぞいてみると、この工事は小学校の網戸設置工事となっています。そして入札参加資格をみると「建築工事業」での登録や経審点数条件、実績が必要であることが書いてあります。
つまり、建築一式工事の許可を有し、経審受審をし、かつ、建築一式工事の実績を有していなければならないということになります。
●3.建築一式工事はなんでもできるの?
そもそも「建築一式工事」とはなんなのでしょうか。
ここは許可行政と一般的な認識で結構大きな乖離があるので解説します。
建築一式工事とは、「総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事」と定義づけられています(昭和 47 年建設省告示第 350 号)。
とてもあっさりしすぎて、わかりづらいですよね。
このことについて、建設業許可を審査する地方整備局や各都道府県は、
①原則元請であること、②建築確認をする工事であることを求めています。
また、「総合的な企画、指導、調整」ということで、金額の大きさもその判断要素に入れるケースもあります。
いかがですか?建築確認をする工事って、住宅やマンション等の「新築」がほとんどですよね。増改築も少しはあると思いますが、ほとんどが、住宅やマンション等の新築であることがわかると思います。
よく、リフォーム(改修)は建築一式工事でないの?建築一式工事は「一式」だから、土木工事以外はなんでもできるんじゃないの?と聞かれることが多いのですが、リフォーム(改修)は、内装工事や大工工事等の専門工事に分類されるのです。
●4.許可行政の常識と入札発注行政の常識
許可行政の常識では、建築一式は、建築確認をする工事ということになっています。
それでは、入札の現場ではどうでしょう。冒頭のさいたま市や富士見市の告示を見ると、どちらも建築確認を必要としない工事であるのに、「建築工事業」つまり建築一式工事での許可と経審受審を条件としてしまっています。
これらの工事を、建築一式工事の許可を持ち、経審受審をしている株式会社CLAが落札したとして、その後を想像してみましょう。
翌年の経審においてP点に影響する「完成工事高」で、建築一式工事にこの2つの工事を入れることはできるでしょうか。
残念ながら、これら2つの工事は、経審の前提となる決算変更届(事業年度終了報告)に添付する工事経歴において、建築一式工事に書くことはできません。
許可行政の常識からも分かるとおり、これらの工事は、建具工事や防水工事等、工事の具体的な内容によって専門工事の実績として計上しなければなりません。
しかし、株式会社CLAは、許可業種に建具や防水がないので、「その他の工事」の完成工事高となります。
そうすると、せっかく頑張って公共団体の元請工事を受注したにも関わらず、建築一式工事の完成工事高として計上することができず、経審の点数が下がってしまうことになるのです。
そればかりではありません。どちらも許可のない業種で500万円以上の工事を請け負ったことになりますから、建設業法違反に問われる可能性もあるのです。
いかがでしょう。入札の条件で建築一式工事の許可と経審受審と書いてあったから参加して落札したのに、工事をやったら翌年経審の点数に反映されなかったり、建設業法違反に問われる・・・。
株式会社CLAとしてはたまったものではありません。
これが、許可行政の常識と入札発注行政の常識の乖離です。
※こういった「乖離」から生じる業者を救済する必要もあり、経審の審査行政庁によっては、業種の判定を入札発注行政に寄り添って融通を利かせてくれる場合もありますが、基本的には許可・経審においては「入札発注者の意思」よりも「工事の実態」で業種を判断します。
●5.モッタイナイをなくすためにどうすべきか
このような、「許可行政の常識と入札発注行政の常識の乖離」で建築一式工事の工事経歴・完成工事高が思ったより少ない!思ったよりP点が上がらない」といったことはありませんか?
決算変更届(事業年度終了報告)で添付する「直前3年の各事業年度における工事施工金額」の「その他の建設工事の施工金額」に数字がたくさん入っていませんか?
これらの「モッタイナイ」をなるべくなくすためには以下の手法が有効です。
★対策1
建築一式工事以外の建築系の業種について、業種追加をする。
株式会社CLAは保有する6業種の他に、狙いたい地方公共団体の入札で出ている工事の実態を確認して、建具や防水等の専門工事業について許可を取得する。
★対策2
追加した業種について、経審では、【建築一式工事】に積み上げ(業種間振り替え)る。
株式会社CLAの場合は、業種追加した建具や防水等の業種について、経審上では建築一式工事の完成工事高に積み上げる。
※積み上げ(業種間振り替え)は、今回のような問題を防ぐためにある救済措置で、工事経歴書や直前3年の各事業年度における工事施工金額には実態にそって建具や防水等に実績計上しても、経審上では建築一式工事の実績として審査できます。
埼玉県の積み上げルール
東京都の業種間振り替えルール
大臣(関東地整)の積み上げルール
※積み上げは、便利な制度でありながらも、条件があったり複雑なので、事前に経審P点や入札格付シミュレーションや狙いたい発注行政の傾向分析が必要です。
この2つの対策をすることで、許可上は専門工事として計上しながらも、経審・入札上は一式工事の実績として見てもらえることができ、「モッタイナイ」をなくすことができます。
自分の会社の工事経歴書、「直前3年の各事業年度における工事施工金額」を見てみてください。
P点対策においてモッタイナイはありませんか?
自分が狙っている(狙いたい)地方公共団体の求めてる業種と実態の業種に乖離はありませんか?
少し対策することで大幅に状況が好転することもよくあります。
ぜひ困ったこと、わからないことがありましたら当所にご相談ください。